夕なぎ5

仕事ができなくなったはつですがその噂は廓中にひろがりました。

 

その理由を聞いて

ちりめん問屋の若旦那が言ってくれたのです。

「おはつちゃんをこのままにしておいてはだめだ。

うちで心の傷をなおしてやりたい。

身請けしたいのでお願いするよ。」

たくさんのお金を出して身請けしてくれました。

 

はつは若旦那の家に引き取られ、

「ここでゆっくりすごすといいよ。

心の傷をいやしなさい。」

とたいそう大事にしてもらいました。

 

はつはつらい遊郭からつれだしてくれた若旦那に心からお礼を言いました。

若旦那の優しさに甘えて毎日寝てすごしました。

心の傷は簡単に癒えるものではなく

毎日ふとんにこもって泣くばかりでした。

「ごめんね、たすけてあげられなくて・・・」

自分も苦しい生活をしていてしかたがなかったのだと

思うことができず、昭介のことばかり考えていました。

あとを追って死にたいとさえ思い詰めていました。

けれども若旦那のはげましもあって

思いとどめては

かろうじて生きていました。

 

 

若旦那はとてもやさしく、毎日はつの顔を見にきては

安らかになるような言葉を言ってくれていました。

はつは次第に起き上がれるようになり

すっかりなくなっていた食欲も戻ってきて

少しずつ食べることもできるようになりましたが

何をする気にもならず寝てばかり、

ふとんに横にならずにすむようになるのに2年かかりました。

その間若旦那は辛抱強く毎日優しい言葉をかけて

はつの心を癒してくれました。